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セルバのブログ:02 よるみちセルバ

2007年08月03日:“食”のこと

【 富士宮焼そば -食彩館 催事-】

私は、富士山を見たことがない。
東京に向かう新幹線、あるいは仙台に帰ってくる途中も、
「あっ!ほら富士山!」という声の直後に振り向くのに、
見えたことがない。
日本といえば富士山、というのは外国人にだって定着している
はず(?)なのに、見たことがないのは、ちょっと何かが欠落して
いるようで(大袈裟!) 、余計に憧れは増すばかりだ。

大学生のとき、静岡県出身の彼氏がいた。
遠足で富士山に登るくらいに富士山は身近で、結婚式は
富士山頂で挙げたいというくらい、富士山好きな男だった。
「そんな空気の薄いところでは苦しくてウェディングドレスを
着られないよ」という私を鼻で笑って、「ウェディングドレス
なんかより、ずっと綺麗な心になれるよ」と吐き捨てた、
気障な男だった。
その彼とつき合っているときは、彼のことしか見えなくて、
富士山なんてどうでもよかったのだけれど、唯一、彼のことよりも
大好きなものがあった。


濃厚なソースで作る焼そば。


当時 仙台では、どろソース(いわゆる‘おたふくソース’)が あまり
知られていなかった。 だから、そのへんのスーパーで売られて
いるようなことも、ほとんどなかった。

彼の実家から月に1度 送られてくる食料いっぱいの段ボール箱の
中に、必ず入っている甘ったるいソースが私には とても新鮮で、
その香りに咽せながら冷たい麦茶といっしょに焼そばを流し込み、
ふと顔を上げると、そこには「旨いか?」という満足げな彼の顔。
それが私には当時いちばん大切な恋だった。

幼すぎた私の心変わりで、あっけなく終わった恋だったけれども。


あれから十年以上が経った。
SELVAでは食彩館の催事で、富士宮焼そばが販売されるという。

当時の彼が作ったものとは きっと違うものだろうけれど、何となく
懐かしく、心ひかれて買ってみた。

焼そばをお好み焼きのような生地で包んだ『しぐれ焼き』。


fujinomiya.jpg

部屋のエアコンもつけずに汗をかきながら麦茶で流し込むように
食べると、口から鼻孔へ抜ける甘ったるいソースの香り。


あぁ、あのときの味がする。
決して高級な味でも、繊細な味でもない、いわゆる『B級』な
味なのだけれど、きっと日本人が昔から愛してきた、あたたかい
人情味あふれる下町の味。
彼が幼いときから愛していたのは、きっと この空気だったんだ。


女というのは、どうしたって勝手な生き物だから、もし あのとき
彼と結婚していたら今頃 幸せになっているだろうかと、夢想してみる。
でも、ソースの香りに咽せながら目を閉じても、案外 何も浮かんで
こないものだ。 まぁ、当然のかもしれない。
いまの毎日は、たくさんの過去の上に積み重なっているのだから、
いちばん下の方にある思い出は、引っ張り出そうとしたって、
出て来るわけがないのだ。


しぐれ焼き の包み紙には富士山の絵。

Mt.Fuji.jpg

富士は日本一の山、という童謡を つい口ずさむ。
そうだ、今度 東京に住む妹のところに遊びに行こう。
新幹線の窓にぴったり貼り付いて、今度こそ富士山を見つけよう。


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《 富士宮焼そば 》1階 食彩館 催事 

しぐれ焼き           735円